睡眠基礎講座#10

頭痛

睡眠には自律神経を整える役割があります。自律神経は心臓や消化器、呼吸器、ホルモン分泌、精神状態などに関係しており睡眠不足は頭痛や高血圧を招き、睡眠を改善しただけで薬を手放せた人は少なくはない

日中の活動しているときは交感神経が血管を収縮させ血圧を上げ、血液循環を高めます。夕方から夜間のリラックスしている状態のときは、副交感神経が優位になり血流を抑制し血圧を下げます。

寝不足で起こる頭痛は「緊張型頭痛」と呼ばれる頭痛が多く、ストレスや過労、精神的な緊張によって引き起こされると考えられています。そのため交感神経優位のままリラックスできないと首筋から肩にかける筋肉の緊張が緩和されず血流が悪化し、それが原因で周囲の神経を刺激し痛みを発生させているとされています。

他にも寝過ぎや睡眠中に発症する頭痛もあり睡眠と頭痛の関係は深く、睡眠を改善したことで薬を手放すことができたという人は少なくはない。

高血圧

日本高血圧学会や米国高血圧学会の診療ガイドラインでは睡眠時無呼吸症候群(SAS)が二次性高血圧の原因疾患の1つに位置付けられています。

高血圧の治療は「食事療法」、「運動療法」、「薬物療法」の順番で進められますが、それでも改善が見られない場合には薬物療法を併用する場合もあります。しかしながら、薬物療法で血圧を十分にコントロールできない「治療抵抗性高血圧」という病態があります。その「治療抵抗性高血圧」と睡眠時無呼吸症候群(SAS)が特に高率で合併することが明らかになっています。

食欲が増える

睡眠はホルモンバランスを調整する役割があります。睡眠が不十分だと食欲を抑制する「レプチン」というホルモンの分泌が低下し、その反対に食欲を増す「グレリン」というホルモンの分泌が増え食べ過ぎるため、短時間睡眠の女性はBMI値が高いと研究報告もあります。良い睡眠は生活習慣病の予防や改善にもつながります。

また細胞の再生や皮膚の柔軟性や水分保水量を促進させるグロースホルモン(成長ホルモン)の70〜80%が第1周期のノンレム睡眠時に分泌されることが分かっていて、同じ第1周期でも入眠時間を明け方にずらすとその分泌量は格段に少なくなる。

アルツハイマー病になりやすい

脳を使うと熱や老廃物が出ますが、睡眠には脳をクリーニングする働きがあります。老廃物(βアミロイド)は、日中でも除去されてますが、睡眠が足らないと十分に除去されず溜まってしまい、それがアルツハイマー病の原因物質の一因となります。また、脳内にβアミロイドが増えると睡眠の質が悪くなり、さらにβアミロイドがたまりやすくなる悪循環を引き起こすことを示唆する研究結果も発表されています。アルツハイマー病に限らず睡眠が不十分で溜まった老廃物は、長期的に脳へのダメージを与え続け障害のリスクを高めます。

免疫力が下げる

免疫はホルモンと連動していて、睡眠が不十分だとホルモンバランスが崩れて免疫の働きもおかしくなります。睡眠時間が5時間未満の人は8時間睡眠の人に比べて風邪をこじらせて肺炎になるリスクは、1.4倍という報告があります※1。

最近では、睡眠時間が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染リスクにも影響する、という研究も行われており、欧米6カ国の医療従事者2,884人を対象にした調査では、夜間の睡眠時間が1時間長い人では、COVID-19に感染するリスクが12%低く抑えられ、また、睡眠障害のチェックリストに3項目当てはまる人は、該当項目なしの人よりも感染危険度が88%高かった、と報告されました※2。

睡眠障害の中でも、いびきをかき、睡眠中に何度も呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の持病がある人は、新型コロナウイルスワクチンの優先接種対象となりました。SASではCOVID-19感染リスクが約8倍高く、重症化(呼吸不全の発症)リスクが2倍になる、という調査報告も※3。

他にも、インフルエンザワクチン接種後の抗体産生量を比較した研究では、睡眠時間が4時間の人は、8時間の人に比べて作られた抗体量が半分以下だった、という気になる報告もあります※4。

※1 Sleep. 2012 Jan 1; 35(1): 97-101.
※2 bmjnph 2021;0. doi:10.1136/bmjnph-2021-000228.
※3 Sleep Breath. 2021 Jun;25(2):1155-1157.
※4 JAMA. 2002 Sep 25;288(12):1471-2.

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